ノエルを批判する者たちは,ほぼ同様に「自己顕示欲」という言葉を使う。しかし,ネットに登場することが,即,「イケナイ自己顕示欲」でしかないのなら,これは,そのまま批判者たちにお返ししておこう。
多くの場合,誰が,どのような目的で使用するかも分からない監視カメラには,無批判に,いくらでも自らの姿をさらし続けている(吸い取られている)にもかかわらず,自らのコントロールでその姿を公開する行為に対しては,ほとんど人権侵害の勢いで批判の声を浴びせるというのは,相当に歪んだ考え方ではないか?
それも,ノエルは,配信を通して常にテキストチャットに反応し,コメントにも積極的に返信している。他者と関係を持ち続ける行為に「自己顕示欲」はあたらない。
2015年2月以降,ノエルがライブ配信で利用することになった「アフリカTV」のウェブサイトを開くと,誰が見ているとも知れない多くの配信に出会うことができる。たった今現在も,車を運転中らしい女性,介護用ベッドの前で一生懸命タブレットの機能を説明しているおじいさん,また,自宅で筋トレ中の人物などなど,どれも視聴者1人か0人の状態。
こうした行為には,すでにウェブキャスティングという言葉もあると思うが,この国で映像メディアといえば,放送局から「大衆」に向けての,放射状のマスコミ的コミュニケーション形態しか共有されていないから,なんでも「自己顕示欲」にされてしまうのだ。
ほとんど,英語版Wikipediaの「Webcam」の内容をなぞってしまうことになりそうだが,とりあえず,ここで「Lifecasting」の流れをおさらいしておきたい。もちろん,ノエルの行為はライフキャスティングだ,ということではないが,同じ映像メディアであっても,様々なコミュニケーションのスタイルがあるということに気付いてほしいのだ。
●前史
日本でインターネットが一般に利用されるようになったのは,最初に1993年11月にIIJが,次いで,1994年にベッコアメ,リムネットなどが消費者向けのサービスを開始して以降である。当時,TCP/IP接続を確立し,ウェブ・ブラウザをインストールしたら,まず,誰もがアクセスしたサイトの一つに,イギリス・ケンブリッジ大学のコンピューター研究所に設置された「Trojan Room coffee pot」がある。
コーヒーポットが映し出された,まるでちっちゃいモノクロ画像が,一定時間に更新されるという質素なものだが,当時,ネットを通してリアルタイムの画像が確認できることに,多くの人たちが魅力を感じていたのだ。
Trojan Room coffee pot (Wikipedia英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Trojan_Room_coffee_pot
The Trojan Room Coffee Machine
https://www.cl.cam.ac.uk/coffee/coffee.html
この映像は,研究員がコーヒーを飲もうとポットのところまで出かけると,すでに空になっていたという事態を避けるため,LAN上にコーヒーポット専用の監視カメラを設置したものだ。それが,1993年には,このシステムがインターネットに接続されたため,世界中の人たちが,この,ケンブリッジ大学の誰かが飲むであろうコーヒーを,せっせと眺めることになった。そもそもが,利便性を求めた行為であり,その後,同様の発想は,リモート操作のコーヒーメーカーに限らず,家電や監視カメラ全般に及ぶことになる。
「世界一有名なコーヒーポット」から15年
http://blogs.itmedia.co.jp/kenjiro/2008/03/web-8550.html
モノのインターネットの源流
http://wirelesswire.jp/2014/09/16756/
しかし同時に,多くの人々が,自らとはかかわりのないコーヒーポットをせっせと眺めていたのだ。ある瞬間に,誰かが注ぐであろうコーヒー。それも,何千キロも離れた場所にあるコーヒーを眺める行為。これは,利便性とはまったく関係のない詩的な行為である。また,実用性の点では,研究所内のLANに限定された画像配信で十分なので,これをインターネットに繋いだケンブリッジ大学の誰かさんも同様である。
●ウェブカメラの誕生
そして1994年,コネクティクス社のQuickCamというマッキントッシュ用のウェブカメラが発売された。これが,いわゆるウェブカメラの始まりだろう。まだUSB接続ではなく,シリアルポート用のカメラで,320×240ピクセルの解像度で,もちろんモノクロだ。主にCU-SeeMeなどのヴィデオ会議用として販売されたものだ。
Webカメラ (Wikipedia 日本語)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Web%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9
※多くの場合,日本語Wikipediaの記述は情報が少なく,ことの一面しかとらえられていない場合が多い。
Webcam (Wikipedia 英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Webcam
※QuickCamやJenniCam項目へのリンクがある。
CU-SeeMe (Wikipedia 英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/CU-SeeMe
●ライフキャスティングの始まり
その後まもなく,各社からUSB接続のカメラが発売されるようになった。高価な設備が必要とされたテレビ会議がすぐに,閉ざされたサークルのテレビ電話やヴィデオ会議ではなく,「Trojan Room coffee pot」のように個人的な配信に利用する行為も広がった。その対象はペットや風景だけでなく,ノエルが常にそうしているように,自らを。中でも一番注目されたのは,数年間に渡って自らを配信し続け,マスコミにも登場するようになったJenniCamのジェニファー・リングレイだろう。
Lifecasting (video stream) (Wikipedia 英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Lifecasting_%28video_stream%29
Jennifer Ringley (IMDd Internet Movie Database)
http://www.imdb.com/name/nm1478850/?ref_=nmbio_bio_nm
Jennicam: Why the First Lifecaster Disappeared from the Internet (GIZMODO)
http://gizmodo.com/jennicam-why-the-first-lifecaster-disappeared-from-the-1697712996
ウェブカメラを利用した配信用ソフトには様々な方式があり,無料で簡単に入手できる。{自宅配信」をした者は少なくないはずだ。とくに,ウェブカメラで撮影した映像を,一定周期でレンタルウェブサーバーに転送するタイプは敷居が低く,ウェブページを公開できる環境があれば,簡単に,自らをあのコーヒーポットのようにすることができた。
●ソーシャルネットになったライフキャスティング
また,創設者のジャスティン・カンが,自らの身体に装着した小型カメラで24時間の配信をすることから始まったライブ配信サイトJustin.tvは,2007年10月に一般公開され,多数のユーザーを集めた。この時点で,ライフキャスト,ライフキャスティングという言葉が広まった。Justin.tvは,その後,ゲームストリーミング専用サイトへと展開した。なるほど,ゲーム配信もまたライフキャスティングの流れの中に置くことができそうだ。
Twitch、ライブ動画サービスJustin.tvを閉鎖 (ITmedia ニュース 2014/08/06)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1408/06/news051.html
Justin.tv
http://www.justin.tv/
※現在は,閉鎖のメッセージなどが残されている。
twitch
http://www.twitch.tv/
多くの場合,誰が,どのような目的で使用するかも分からない監視カメラには,無批判に,いくらでも自らの姿をさらし続けている(吸い取られている)にもかかわらず,自らのコントロールでその姿を公開する行為に対しては,ほとんど人権侵害の勢いで批判の声を浴びせるというのは,相当に歪んだ考え方ではないか?
それも,ノエルは,配信を通して常にテキストチャットに反応し,コメントにも積極的に返信している。他者と関係を持ち続ける行為に「自己顕示欲」はあたらない。
2015年2月以降,ノエルがライブ配信で利用することになった「アフリカTV」のウェブサイトを開くと,誰が見ているとも知れない多くの配信に出会うことができる。たった今現在も,車を運転中らしい女性,介護用ベッドの前で一生懸命タブレットの機能を説明しているおじいさん,また,自宅で筋トレ中の人物などなど,どれも視聴者1人か0人の状態。
こうした行為には,すでにウェブキャスティングという言葉もあると思うが,この国で映像メディアといえば,放送局から「大衆」に向けての,放射状のマスコミ的コミュニケーション形態しか共有されていないから,なんでも「自己顕示欲」にされてしまうのだ。
ほとんど,英語版Wikipediaの「Webcam」の内容をなぞってしまうことになりそうだが,とりあえず,ここで「Lifecasting」の流れをおさらいしておきたい。もちろん,ノエルの行為はライフキャスティングだ,ということではないが,同じ映像メディアであっても,様々なコミュニケーションのスタイルがあるということに気付いてほしいのだ。
●前史
日本でインターネットが一般に利用されるようになったのは,最初に1993年11月にIIJが,次いで,1994年にベッコアメ,リムネットなどが消費者向けのサービスを開始して以降である。当時,TCP/IP接続を確立し,ウェブ・ブラウザをインストールしたら,まず,誰もがアクセスしたサイトの一つに,イギリス・ケンブリッジ大学のコンピューター研究所に設置された「Trojan Room coffee pot」がある。
コーヒーポットが映し出された,まるでちっちゃいモノクロ画像が,一定時間に更新されるという質素なものだが,当時,ネットを通してリアルタイムの画像が確認できることに,多くの人たちが魅力を感じていたのだ。
Trojan Room coffee pot (Wikipedia英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Trojan_Room_coffee_pot
The Trojan Room Coffee Machine
https://www.cl.cam.ac.uk/coffee/coffee.html
この映像は,研究員がコーヒーを飲もうとポットのところまで出かけると,すでに空になっていたという事態を避けるため,LAN上にコーヒーポット専用の監視カメラを設置したものだ。それが,1993年には,このシステムがインターネットに接続されたため,世界中の人たちが,この,ケンブリッジ大学の誰かが飲むであろうコーヒーを,せっせと眺めることになった。そもそもが,利便性を求めた行為であり,その後,同様の発想は,リモート操作のコーヒーメーカーに限らず,家電や監視カメラ全般に及ぶことになる。
「世界一有名なコーヒーポット」から15年
http://blogs.itmedia.co.jp/kenjiro/2008/03/web-8550.html
モノのインターネットの源流
http://wirelesswire.jp/2014/09/16756/
しかし同時に,多くの人々が,自らとはかかわりのないコーヒーポットをせっせと眺めていたのだ。ある瞬間に,誰かが注ぐであろうコーヒー。それも,何千キロも離れた場所にあるコーヒーを眺める行為。これは,利便性とはまったく関係のない詩的な行為である。また,実用性の点では,研究所内のLANに限定された画像配信で十分なので,これをインターネットに繋いだケンブリッジ大学の誰かさんも同様である。
●ウェブカメラの誕生
そして1994年,コネクティクス社のQuickCamというマッキントッシュ用のウェブカメラが発売された。これが,いわゆるウェブカメラの始まりだろう。まだUSB接続ではなく,シリアルポート用のカメラで,320×240ピクセルの解像度で,もちろんモノクロだ。主にCU-SeeMeなどのヴィデオ会議用として販売されたものだ。
Webカメラ (Wikipedia 日本語)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Web%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9
※多くの場合,日本語Wikipediaの記述は情報が少なく,ことの一面しかとらえられていない場合が多い。
Webcam (Wikipedia 英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Webcam
※QuickCamやJenniCam項目へのリンクがある。
CU-SeeMe (Wikipedia 英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/CU-SeeMe
●ライフキャスティングの始まり
その後まもなく,各社からUSB接続のカメラが発売されるようになった。高価な設備が必要とされたテレビ会議がすぐに,閉ざされたサークルのテレビ電話やヴィデオ会議ではなく,「Trojan Room coffee pot」のように個人的な配信に利用する行為も広がった。その対象はペットや風景だけでなく,ノエルが常にそうしているように,自らを。中でも一番注目されたのは,数年間に渡って自らを配信し続け,マスコミにも登場するようになったJenniCamのジェニファー・リングレイだろう。
Lifecasting (video stream) (Wikipedia 英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Lifecasting_%28video_stream%29
Jennifer Ringley (IMDd Internet Movie Database)
http://www.imdb.com/name/nm1478850/?ref_=nmbio_bio_nm
Jennicam: Why the First Lifecaster Disappeared from the Internet (GIZMODO)
http://gizmodo.com/jennicam-why-the-first-lifecaster-disappeared-from-the-1697712996
ウェブカメラを利用した配信用ソフトには様々な方式があり,無料で簡単に入手できる。{自宅配信」をした者は少なくないはずだ。とくに,ウェブカメラで撮影した映像を,一定周期でレンタルウェブサーバーに転送するタイプは敷居が低く,ウェブページを公開できる環境があれば,簡単に,自らをあのコーヒーポットのようにすることができた。
●ソーシャルネットになったライフキャスティング
また,創設者のジャスティン・カンが,自らの身体に装着した小型カメラで24時間の配信をすることから始まったライブ配信サイトJustin.tvは,2007年10月に一般公開され,多数のユーザーを集めた。この時点で,ライフキャスト,ライフキャスティングという言葉が広まった。Justin.tvは,その後,ゲームストリーミング専用サイトへと展開した。なるほど,ゲーム配信もまたライフキャスティングの流れの中に置くことができそうだ。
Twitch、ライブ動画サービスJustin.tvを閉鎖 (ITmedia ニュース 2014/08/06)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1408/06/news051.html
Justin.tv
http://www.justin.tv/
※現在は,閉鎖のメッセージなどが残されている。
twitch
http://www.twitch.tv/